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就労からリタイアした、又はリタイア間近な男性に読んでいただき、リタイア後も家にこもりきりにならないで社会と繋がりを持つための参考にしていただけたら嬉しく思います。

手漉き和紙の里探訪記(2/6)

手漉き和紙の里探訪記の2回目で、前回はご自身の著書や紙の博物館を紹介していただきました。今回は世界や日本における製紙の歴史などお話しくださいます。

warabijyuku.hatenablog.com

≪溜め漉き(ためすき)から流し漉き(ながしすき)へ≫

紀元前105年、後漢の時代に蔡倫(さいりん)が長安で麻の溜め漉き紙を作りました。しかし、蔡倫より240~250年以前には既に紙が存在していたことが現在では定説になっており、蔡倫は紙の改良者として伝えられています。手漉き和紙は607~608年に小野妹子、630年には空海最澄等の遣唐使によって、日本にもたらされました。この後手漉き和紙は、日本で「溜め漉き」から「流し漉き」へと改良され、原料も麻から楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)などに、糊も黄蜀葵(とろろあおい)などに変わっていきました。

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写真福井県の「越前和紙の里」にあります大滝神社(写真左)で、紙の神様「紙祖神川上御前(しそじんかわかみごぜん)」(写真右)が祀られています。

源氏物語(鈴虫)には、「唐の紙はもろくて朝夕の「御手ならし(みたならし=便所の紙)」にもいかがとて、紙屋(かんや)人を召して---心ことに清らに---かせ給えるに」とあります。この頃の紙は脆かったので、日本独特の手漉き和紙が生まれ、やがて中国へも逆輸出されていきました。

≪中国のため漉き和紙は西方へ≫

一方、中国で発明された製紙法(麻製紙)はバクダットに伝わりました。751年に中国の唐と、西のイスラム教サラセン大帝国アッパース朝との間で、中央アジアのタラス川を挟んで戦争(タラス戦争)が行われました。なお、タラスはカザフスタンキルギスの上、ジャンブール付近にあり天山山脈の西に位置しています。

唐は約3万の大軍でしたがアッパース朝に惨敗してしまい、唐の生き残り約2万が捕虜となりサマルカンドに連れていかれました。連行された捕虜の中には製紙法に通じていた紙漉き職人も含まれていたので、この職人たちによってサマルカンドの製紙技術が向上したのです。

サマルカンドの出土品からは706年に作られた紙が見つかっており、これ以前にシルクロードを通じて紙が流通していたことが分かります。首都サマルカンドに最初の製紙工場が出来て紙漉きが始まったのはこの時といわれています。中国製紙法の西方伝播はシルクロード史上特筆される事件でしたが、サマルカンドから先の西欧やアメリカ大陸には伝わっておらず、その後、1853年にペリーが我が国に開国を迫りに来るまで和紙は存在していません。使われていたのは羊皮紙とパピルスでした。

≪地図を片手に和紙の里探訪≫

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手漉き和紙のことをもっと知りたいと思ったきっかけは、二枚の古地図との出会いでした。漉かれてから200年以上も経つのに、腐敗や虫食いなどが見当たらないのに驚き、紙の里を巡り始めるきっかけとなった古地図の一枚に「行基菩薩説大日本國圖(ぎょうきぼさつせつだいにほんこくず)」があります。この地図を作ったのは和泉国大鳥郡(現在の大阪府堺市)出身で、81歳まで活躍した日本の仏教僧「行基(ぎょうき)」(618~749年)です。

行基奈良時代に全国を行脚し、布教の傍ら産業振興にも貢献し、人々から「行基菩薩」と称されています。この地図はおたまじゃくしを並べたような稚拙さですが、和紙で作られた大変貴重なものです。木簡・竹簡の時代から和紙を漉く時代に変わり、大化改新大宝律令によって全国に号令が出されることに役立ったのです。

国々が丸みをおびた輪郭で連なり七道の街道線が引かれ、東海道ほか七道の諸国は六十八州から成り立っているものの、蝦夷松前琉球王国は描かれていません。行基図は日本で初めて作られた地図といわれており大変貴重なものですが、残念ながら実物は現存しておらず、筆者が見たものは慶安四年(1651年)、徳川家綱の時代に復刻されたものでした。

≪貴重な「和紙の時代」のはじまり≫

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手漉き和紙のことをもっと知りたいと思ったきっかけになった もう一枚は安永七年(1778年)水戸藩地政学者、長久保赤水(ながくぼせきすい)の「大日本輿地路程全圖(だいにほんよちろていぜんず)」です。この地図は伊能忠敬が幕府の命で、全国測量を開始した寛政12年(1800年)より20年以上前のもので、我が国初の経度入り地図として知られています。全国で六十八州が描かれているのは行基図と同じで、やはり松前琉球王国が描かれていません。日本海沖の37°と38°の間には、竹島と松島が描かれており、これらの島では鮑漁が盛んだったため、島根藩を通じて江戸の将軍へと献上されていました。

≪なぜこのような地図が出来たのか≫

当時は水戸藩の船が太平洋沖で難破し、東南アジアまで漂流してしまうことがありましたが、乗っていた船は使い物にならないため、親切な現地の人達が船乗りを自分の船で長崎まで送り届けてくれていたのです。長久保赤水水戸藩の役人として働いていたので、水戸から長崎まで行って船乗りを引き取り、連れ戻す役を担っていました。赤水はこの往復の道中に各地で見聞きしたことを地図にまとめたため、残念ながら東北の太平洋側や北海道は描かれていません。100万歩の男といわれる伊能忠敬よりも20年以上前のことです。

≪他の古地図や古文書≫

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正倉院の古文書がそうであるようにこの二枚の地図の他にも、古地図達には腐敗や虫食いなどの劣化が見られないのには驚きました。反対に大正・昭和期の機械漉き紙の地図や文書は劣化が進み、折り目から破損したり、脱色や虫食いなどで年々無残な姿になっていきました。一体この差は何なのか、極めて素朴な疑問が湧き出したのです。

何故、機械漉きは劣化するのか、その劣化の原因は紙魚(しみ)にありありました。紙魚は原始的な昆虫で体系が魚に似ているため魚の字を使いますが、世界中には約200種類、日本にも数種類いるといわれています。

代表的な紙魚はヤマトシミで書庫、納戸、倉庫等の暗い陰に住み、紙類、書物、布等の糊を舐めて生きています。舐めるだけでなく紙に穴をあけるため、死番虫(しばんむし)と呼ばれている嫌われ者です。

それでは機械漉きの和紙になぜ紙魚がつくのか調べてみると、機械漉き和紙には紙魚が好きな薬品ノリが使われているからだと分かりました。一方、手漉き和紙にはなぜ紙魚がつかないのか、答えはノリに黄蜀葵(とろろあおい)や糊空木(のりうつぎ)を使っているからです。この違いは大きいのですが、手漉き和紙でも木ノリや蒟蒻ノリを使った古文書には紙魚の穴が開いたものがあり、古文書といえどもノリ次第といえます。これ等の知識をもとに全国の手漉き和紙の里を探訪しました。

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「手漉き和紙の里探訪記」6回シリーズ2回目をご紹介しました。製紙の歴史や地図の歴史・古文書の虫食い等、とても楽しく拝聴しました。

紙魚の話も面白かったですね。少し調べたら、昆虫鋼シミ目の昆虫の総称で世界中に生息しており、8〜10mm程度と小さく、魚のような形体をして体をくねらせながら移動して紙を食べる。英語では体の色から「silverfish」というそうです。

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なお、オンライン公開講座のご案内は下記『笑楽日塾』のホームページに記載されていますのでご一読ください。

本ブログの内容は、著者の個人的見解も多く含まれており、著者の所属する笑楽日塾の意見、方針を100%示すものではありません。

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